「左官」について

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「左官」という言葉を聞いた事がありますか?
「しゃかん」もしくは「さかん」と読みます。
建築現場で、塗壁やモルタルなどを仕上げる職人の事を「左官」と呼びます。
同じ建築関係の職人でも「大工」「建具屋」と言えば何をするのか一目瞭然ですが、この「左官」という言葉だけでその具体的な仕事内容を想像できるのは、おそらく既に左官仕上げの家を検討している方くらいでしょう。
しかしながら、和の建物にはこの「左官」の技が活かされることが多いのです。
今回のコラムでは、この「左官」について掘り下げてみようと思います。

目次

「左官」の名前の由来

 

諸説ありますが、次の3つの説が唱えられています。

 

官職として与えられた説

その昔、宮廷には何らかの位が無いと入場が出来なかったそうです。そこで、宮廷の壁塗りに関わる職人に「左官」という官職を与え、それが今日でも使用されているという説です。

 

大工の「右官」に対して「左官」説

建築では、骨組みを組む大工と、建物に化粧を施す「左官」が重要とされていました。大工の事を「右官」と呼んでいたのに対し、壁塗りの職人を「左官」と呼ぶようになったという説です。但し、大工の事を「右官」と呼んでいたという事を示す明確な文献等が無いことから、俗説であるとされています。

 

階級から取ったとする説

奈良時代、宮殿の建築に携わる「木工寮(もくりょう)」という組織がありました。そこには、以下のような階級があったそうです。

一、守(かみ)・・・・・大工

二、介(すけ)・・・・・檜皮葺き(ひわだぶき)職人

三、掾(じょう)・・・・金物職人

四、属(そうかん)・・・壁塗り職人

この「そうかん」が後に「さかん」に転じたという説で、最も有力とされています。

 

左官の歴史は縄文時代から⁉

 

 

左官の歴史は、なんと縄文時代にまで遡ると言われています。この時代、人々は主に竪穴式住居で生活していましたが、この住居の壁の材料となる土を積み上げて土塀を作っていたことが、左官のルーツと考えられています。

しかしこの頃はまだ「左官」という言葉は無く、その活躍が際立ってきたのは飛鳥時代とされています。

この時代になると、土壁に石灰を使用して白く上塗りをするという技術が開発され、左官工事はどんどん発展していきました。

 

美しさと機能を兼ね備えた塗り壁

先に述べたように、飛鳥時代に本格的に始まった左官は、その後時代を経て様々な発展を遂げていきます。

安土桃山時代には、茶室に色土が使われるようになり、砂や繊維を混ぜて様々な表現が出来るようになりました。

千利休の茶室「待庵」では壁全体にきれいな土壁が施され、その中に混ざっているワラがあたかも松の葉を散りばめたような紋様となり、巧みに部屋全体に彩りを与えています。

江戸時代になると、漆喰仕上げが開発され、継ぎ目の無い美しい外観の家が増えてきました。

漆喰彫刻というレリーフ状の装飾も行われるようになり、技術が大幅に向上しました。

また、機能の面でも耐火性という観点からも土壁は優れており、度重なる大火に備えるため、幕府は漆喰の土蔵蔵の建築を奨励します。

美しさと機能の両面から、左官は非常に評価が高かったと言えるでしょう。

 

代表的な左官材料をご紹介

 

「漆喰」

消石灰やすさ(壁の補強や亀裂防止の為に壁土に混ぜ込む藁くずや糸くずのこと)、海藻糊などを混ぜ合わせて作る材料で、昔から城や蔵の壁を中心に幅広く用いられてきました。

その特徴は、滑らかな質感はもちろんのこと、先程ご紹介したように優れた防火性を有しています。

その他にも、シックハウス症候群を引き起こすホルムアルデヒドを分解してくれたり、消臭効果もあったりと、きれいな空気環境を生み出すことにも一役かってくれる優れものです。

 

「珪藻土」

プランクトン(海藻)の死骸が海底などに堆積してできる土に糊を加えて固めたもの。漆喰同様耐火性に優れ、環境にも人にも優しい自然素材であり、さらには室内の湿度を調節してくれる機能もあることから、人気の高い材料です。(少し前に、珪藻土のバスマットが話題になりましたね)

 

「聚楽壁」

京都の聚楽第(豊臣秀吉により建築された邸宅)付近の土が使われていたことからこの名前が付けられました。

現在では他の地域の土を使っている場合でも、同様の仕上げであれば同じく聚楽壁と呼んでいます。

漆喰や珪藻土と同じような特徴を持っていますが、より土壁らしい質感があり、混合する土の色によって異なる色合いが引き出されることもあり、特に和室を中心とした和の空間を上手く盛り上げてくれます。

 

左官の現在と未来

 

時代を重ねて大きな発展を遂げた左官の技術は、モルタル壁の普及により、和の建物だけでなく、洋風住宅にも活かされるようになっていきます。

しかし、近年ではサイディング張り等の発達や、内装のクロス張りの普及により、左官の活躍の場は昔と比べるとかなり減ってしまいました。

確かに、工業化製品は防汚性や経年劣化の観点で、左官よりも優れた点が多いことも事実です。

ただ、左官の仕事には手作業や自然の素材ならではの良さがあることも忘れてはいけません。

それぞれのメリットとデメリットを十分に理解し、適材適所で左官を採り入れていくのが、現代人の取るべき行動なのかもしれません。

住宅の作り手としての私たちは、左官などの技術が、「一部の限定的な人や物だけに使われる特別なもの」とならないよう、技術を紡いでいくことが重要なミッションであると考えています。

 

 

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